振袖を選ぶ場合のポイントとして色はもちろんですが、どのような柄が描かれているのかも重要です。振袖の柄には着る人の幸福を願うものや縁起のよいもの、美しさを引き立てるものなどがあります。今回は振袖の柄の中でも、一般的に描かれている「有職文様」と「吉祥文様」について解説します。
有職文様の振袖とは?
有職文様とは、公家や学者などの有識者に利用されたことから付けられた名前で、平安貴族の衣装の束帯(そくたい)や十二単(じゅうにひとえ)、調度品の装飾に使用され優美な織り文様です。一般庶民は使用どころか見ることすらできないようなもので、公家社会のきらびやかさを象徴するものでした。
もともとは中国から伝わってきましたが、日本独自の文様として定着しています。模様としては図形を中心に構成されていて、円や曲線、六角形などの組み合わせにより描かれており、規則的な形をとっているものが多いのが特徴です。中には幾何学模様のようなものもあり、古典的な柄でありながらモダンな着こなしができるので、コーディネートを楽しみたい方におすすめです。
有職文様の種類
有職文様にはたくさんの種類があり、いろいろ派生までありますが、振袖で代表的なものには次の4種類があります。
■七宝
七宝とは仏教用語で、七つの宝という意味で、「金・銀・瑠璃(るり)・玻璃(はり)・硨磲(しゃこ)・珊瑚(さんご)・瑪瑙(めのう)」の七つの宝を指しています。
連続した円がつながった模様になっていることから人との縁や円満の意味が込められており、七つの宝と同じ価値を持つことから七宝と名付けられました。とても縁起がよいとされているために、振袖にもよく使用されています。
■亀甲
亀甲とは正六角形が上下左右に並ぶ幾何学模様で、亀の甲羅に由来していることから付けられた名前です。亀は鶴と同じく長寿の象徴として描かれているために、縁起のよい生き物とされています。亀甲が連なりその形が崩れないようになっていることから、繁栄の願いも込められており、古典柄にもモダン柄にも使われる代表的な有職文様です。
■花菱文
菱形の中に4枚の花びらを描いた優しい雰囲気の文様が花菱文です。平安時代から上流の人々にしか利用許可がおりていなかったために、高貴や上品という意味が込められています。
■矢羽根・矢絣(やがすり)
矢羽根とは弓矢の羽の部分をモチーフにした模様で、魔除けや厄除けの意味が込められています。矢絣とは絣糸を使用して矢羽根模様をあらわした織物のことです。矢絣は矢羽根文様の輪郭がかすれて見えるのが特徴となっています。縁起のよい柄のため、卒業式の袴にあわせてコーディネートされる定番の振袖ですが、成人式でもよく着られています。大正ロマンのレトロな雰囲気の柄が人々を魅了しているようです。
吉祥文様の振袖とは?
振袖には縁起がよいとされる柄が数多くありますが、その中でも華やかで、古くからお祝いの席で好まれてきた文様が吉祥文様です。
「よい兆し」「めでたいしるし」という意味で表現された文様の総称で、中国からの影響を受けたものもあれば、日本で縁起がよいとされているモチーフまでたくさんの種類があり、動植物や物品などが描かれています。
吉祥文様には、五穀豊穣や祈願成就、商売繁盛、健康長寿など柄によっていろいろな願いが込められており、昔から縁起のよい文様として親しまれています。
吉祥文様の種類
吉祥文様には、中国から影響を受けた文様としては、龍や鳳凰、鶴、亀、松竹梅などがあり、日本で生まれたものには橘や御簾、檜扇、貝桶、熨斗などがあるようです。その中でも代表的な4種類を紹介します。
■松竹梅
日本人にはお馴染みに松竹梅がありますが、3種類とも寒さに耐える植物であることから強さを表現しています。松は神様が宿る木とされていて「不老長寿」の意味が、竹は節目があり、まっすぐ伸びるために「成長」、梅は寒い中でも花を咲かせることから「女性の強さ」を表現しているようです。また、成人した後も素敵な人生が歩めるようにという願いが込められているのも松竹梅です。
■鶴
鶴は長寿や生命力の豊かさを象徴する鳥で、長く幸せを運んでくれると愛されてきた鳥です。上品で美しい姿から、長く愛され続けている模様となっています。
■扇
扇は形が広がっていることから、末広がりに運気がよくなり未来が明るいという意味が込められており、発展や栄光を表しています。とくに、花嫁衣装で使用されることも多く、花の柄と組み合わせた花扇として利用されているようです。
■熨斗(のし)
熨斗は贈答品などに添える飾りで有名ですが、もともとは熨斗鮑(のしあわび)と呼ばれる神様のお供えものがもとで、長寿をあらわす縁起物として利用されていました。振袖には熨斗を細長い帯状にしたものが柄として使われ、華やかさを引き立たせてくれます。
以上、振袖で代表的に描かれている「有職文様」と「吉祥文様」について紹介しました。どちらの文様も種類が多いですが、美しく華やかな柄ばかりで、それぞれの柄には深い意味や願いが込められています。柄に込められた意味を理解したうえで振袖選びをすれば、もっと自分らしい振袖に出会えるでしょう。